普遍的正義
この本は,朝日新聞の池澤夏樹氏のコラムにおいて,この文章を書くのに役立ったということを知って,読んでみた.
少し読み始めると,最近に読んだ幸せと経済をめぐる本と繋がる内容がしばしば出てきて驚いた.
経済学にパレート改善という言葉があるが,これは,最大多数の幸福増進と同じであると知った.お金に換算して,費用対効果(費用便益分析)はまさにこのためだ.
これは功利主義につながる.
自己所有権を主張する自由至上主義では,合意による成人間の食人を不正義とすることを困難にしてしまう.私(の身体)は私のものなのかと考えるという,視点の重要性に気づかされた.
自由市場に任せれば何でも解決するという自由市場主義の擁護は,自由至上主義と功利主義による.自由を重視する立場と,功利主義的な見地から福祉を増進する立場がある.これについては,傭兵制度は正義か,代理母は正義かと問いつめ,選択の自由はどこまでか,金で買えない美徳はないのかと考える.
カントの厳密な道徳論は,功利主義を批判し,社会契約論に基づく正義論につらなるという.それを深めたのが,ジョン・ロールズの平等論となる.平等の原初状態における仮説的合意を出発点とする.
詰まるところ,著者は,一貫して正義には道徳が欠かせないと主張している.
個人的に興味を持ったのは,平等にみえて平等な競争ではないという議論で,ハーバード大学の受講生における長子の占める割合は,毎年8割くらいだという事実だ.知らず知らずに環境条件が異なっていることを雄弁に物語っており,自分だけの努力,才能だけではないことを裏付けている.すなわち,ほとんどが偶然の条件によって,運に左右されているということだ.人生のスタート地点から平等でなくては正義ではない.このあたりは,北欧の社民主義の原点ではないだろうか.
もうひとつ興味をもったことは,公立学校の役割についてである.著者は,多元的な社会における振る舞いを知る場(公民教育)として重要視している.
つぎに興味深いのは,互いに負うものは何かにおいて,日本の慰安婦問題に対する謝罪,兄弟の罪をどう扱うか,などの議論を通じて,コミニュティーの重要性を主張する.このあたりは,広井良典の主張と重なる.さらに,著者は,多元的な社会では,正義の行為が一致しないだろうから,不一致を受け入れられる社会の構築が必要だと説く.政治にも道徳的な考えを持ち込むべきだという.その最たるものとして,ロバート・F・ケネディーの演説を引用している.また,その後継としてバラク・オバマに期待している.これからの公正な社会は,市民がより積極的にコミュニティーに,政治に関わることが大切だと論じている.
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